拠点リーダーの挨拶
広島大学エネルギー超高度利用研究拠点(HU-ACE)代表
松村 幸彦(大学院先進理工系科学研究科 教授)
前任の西田代表の2021年3月での定年退職を受けて,代表交代と「広島大学エネルギー超高度利用研究拠点」の継続が2021年8月に承認され,活動を再開しました.輸送分野を中心にエネルギー・燃料の創製・貯蔵・利用の「超高度」技術の開発研究,またこの分野を支える次世代研究者の教育を推進します.
これまでの西田前代表のもとでの活動によって,国際会議も,共同研究も,広島シナリオの構築も,軌道に乗ってきています.これからも,工学,先端物質科学,総合科学,国際協力などの学術分野の,23人の教員・研究員が連携して活動する枠組みで,世界レベルの研究を進めていきます.
広島大学では2030年にキャンパスからの二酸化炭素排出量をゼロにする宣言を出しました.その実現に向けても協力を進めていきます.これまでよりも幅広い視野でのエネルギーの流れ全体を見た活動に展開していきたいと思います.幅広い教員・研究者が在籍する総合大学の強みを生かした,エネルギー超高度利用の研究を発展させます。
設置の経緯・ミッション
【設立の経緯】
現在、世界的な環境問題である地球温暖化に対する対策がパリ協定に基づいて進められている。その究極的な解決策として、エネルギー資源を持続可能な形で環境負荷なく利用するエネルギー超高度利用技術に対するニーズが高まっている。広島大学においても、内燃機関の効率向上、再生可能エネルギーの利用、クリーンエネルギーの利用などの研究が、次世代エネルギープロジェクト研究センター、バイオマスプロジェクト研究センター、総合科学研究プロジェクト資源エネルギー研究などの枠組みを用いて、それぞれ鋭意進められている。しかし、今後のエネルギー利用効率の革新的な向上、およびその社会実装に向けた取り組みを加速化するため、上記の研究センターを統合する新たな研究拠点設置の設置が求められた。そこで、広島大学に所属する研究者の間で意見交換を行い、燃焼技術を基盤として、その高効率化、持続可能化、クリーン化、そして社会実装を進める総合研究拠点として広島大学エネルギー超高度利用研究拠点(HU-ACE)を設立した。
【ミッション】
日本は、地球温暖化の対策として2030年時点で26%(13年度比)、さらに2050年までに80%もの高いCO2削減目標を掲げています。この目標を達成するためには、これまで以上の省エネルギーの実現と自然エネルギーの徹底活用とともに、CO2回収貯蔵など分野横断的技術の開発及び統合が求められています。その大きな課題の解決を最終目的として本拠点では、一次エネルギー供給から輸送・貯蔵、そして最終エネルギー消費までの各段階のエネルギー利用効率を飛躍的に改善する超高度技術の開発、2050年に向けたエネルギー利用技術の開発ロードマップ及び統合シナリオを広島シナリオとして構築・改良、そして構成員間でシナリオを共有し、その実現に向けた学際的・横断的研究教育を通じて、温室効果ガスの大幅削減に貢献する研究成果の発信、および人材育成を行います。
研究概要
【基礎研究】
本研究拠点が実施するのは、超高効率・持続可能・クリーンなエネルギーシステムの実現に向けた研究開発です。地球温暖化に対する再生可能エネルギーの利用として、現在の化石燃料由来のエネルギーシステムから太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーを用いたエネルギーシステムへの移行が進められていますが、このときに重要なのは、最終エネルギー消費の超効率利用と2次エネルギーへの超高効率変換技術です。各種再生可能エネルギーは、ポテンシャルとしては大きいが、経済的に回収できる利用可能量には限界があり、これを少しでも効率良く利用することが求められています。また、太陽光や風力から直接得られる電力は貯蔵が容易ではなく、輸送・貯蔵が可能な化学エネルギーとしての「燃料」がこれからも必要とされます。さらに、燃料が直接求められる分散型輸送エネルギーの利用にも重点を置き、以下の4テーマを中心に研究活動を行います。
【国内外ネットワーク構築】
上記の4グループならびに分析・評価グループを置き、企業との共同研究、海外との共同研究を展開して、世界的なエネルギー研究拠点化を行う。
【広島シナリオの構築】
広島シナリオは、現在のエネルギーシステムから、高効率、再生可能、クリーンなエネルギーシステムへ段階的に新たなエネルギーシステムを導入していくシナリオを拠点メンバー共通の認識として掲げるものである。詳細は拠点化の後に、各研究者の知見を踏まえて決めていくが、概要としては、以下の通りである。
現在のエネルギーシステムは主として化石燃料を1次エネルギーとし、輸送用燃料としてはガソリン、軽油が用いられている。既存のエンジンならびに各種タービンを用いた動力利用、発電利用がなされており、このためにエネルギー効率は規模によって異なるものの30~50 % 程度であり、多くの二酸化炭素が排出されている。
これに対して2025年には、エンジンを含む各種燃焼技術の高効率化が導入される。特に、排ガス再循環や純酸素燃焼に加えて、レーザー点火の導入はエンジンの制御性を高め、その効率を高めることに資する。
さらに2030年には、再生可能燃料の導入が促進される。現在、リグノセルロース系バイオマスからのエタノール生産、藻類を用いた油生産は主として経済的な理由から広く普及するに至っていないが、パリ協定に基づいたバイオ燃料の導入はある程度高コストであっても求められ、一方で、技術開発に伴う生産コストの低減が進む。またメタン発酵によるガスエンジンは現在、ごく一部で利用されているに過ぎないが、排ガス中の煤塵がなく、再生可能エネルギーであることから同じく2030年頃には広く用いられる。
そして2050年には、水素燃料の導入が本格化する。水素エネルギーの導入はインフラ整備が問題となるが、経済的な水素利用が実現するにはまだ解決が必要な課題が多く残されている。しかしながら、バイオ燃料は有機物であるために燃焼に伴って二酸化炭素を排出するのに対し、水素は水しか生成しないので、分散型発生源での二酸化炭素排出はなく、ライフサイクル的な懸念無く利用することができる。
このシナリオを基本として、各システム要素に求められる技術開発を系統的に行う。